熱力学の世界を歩く

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このサイトの趣旨

熱力学第二法則*というものをご存知でしょうか。「理系の人間でもシェークスピアの主な作品群を知っていることが当然であるように、文系の人間は理科の素養として熱力学第二法則くらいはを知っているべきだ」という考え方**があります。この発言は、物理学の教育を受けた経験のある異色の英国人作家 C.P.スノー によるものです。彼は、文学的知識人と科学者(特に物理学者)が相互にいだく無理解と無関心が世界を破滅に導く、と警戒した人のようです。この発言において、科学分野の共通の知識として、他の原理、法則でなく、「熱力学第二法則」が挙げられたことは、根拠のあることであり、このサイトを運営する者として、好ましさを覚えました。確かに熱力学第二法則は、現代人が持つべき基本的知識であると思います。この法則は、カルノーによる熱機関の仕事の効率に関する研究が土台となり、クラウジウスらによって導き出されました。第二法則は、様々な形で表現されています。「クラウジウスの原理」或いは「トムソンの原理」を第二法則とする考え方が一般的ですが、「現実の過程では、孤立系のエントロピーは増大する」を第二法則とする立場もあります。これらを内容とする第二法則を、開放非平衡系に展開することにより、オンサガーの線形非平衡論、プリゴジンの散逸構造論、が形成されてきました。このような発展によって、熱力学は自然界の現象を理解する上で益々有効な理論となりつつあります。シェークスピアも熱力学第二法則も、ごく普通の教養、常識として、人々に受け入れられる世の中になることが望ましいと思われます。
  
細分化された個々の科学だけでなく、それらを総合的に理解した上で、自ら判断、行動をすることが、現代では求められています。それが可能な枠組みを我々の思考様式に加える上で、熱力学的観点は欠かせません。しかしその観点を自分のものにできるような教育環境、学習(自己教育)環境は、現在の我々の社会には、ととのえられていないように思えます。私の場合、若かった頃に熱力学の理解を志して以来、努力を続けて、とりあえず区切りのつく段階に達したとき、紛れもなく老齢期にいました。これほどに時間を費やした理由として、私の理解力の乏しさを第一に上げねばなりませんが、熱力学に取り組んだ過程に無駄、無理が多かったのも事実です。随分非能率なことをしてきたものだ、と思っています。
 
現職時代に、職務の一環として、熱力学の理解に努めてきました。熱力学を学ぶ中で作った覚書きが、溜まってきました。これらは私のもつれ勝ちな思考過程を整理するためのものです。その一部を、このサイトで公表することにしました。公表する理由は、覚書きを公開することによって、間違いが正され有益な批評をいただけるかも知れない、と思うからです。さらに、私の覚書きを含めて沢山の知見が、ネット上に現われることになれば、淘汰される部分を除いても、熱力学を学ぶ過程が豊富になる思われます。熱力学を理解するプロセスが多くある程、熱力学は我々日本人を含む宇宙船地球号の乗員の常識になりやすいはずです。また一層多くの人々に熱力学の考え方が広がるにつれて、熱力学自体ももっと分かりやすい内容になっていくと思います。そのような状況を作り出すために、このサイトが僅かでも寄与できれば幸いです。熱力学関連のサイトは他に多くありますので、ここでは、私がこれに取り組んだ動機、理解に苦労した所など、メンタルな要素を加えたいと思っています。「熱力学の世界を歩く」という表題から、熱力学にまつわる人物や史跡について肩の凝らない話などを集めたサイトかと想像される方がいるかも知れません。そういうサイトにも魅力を感じますが、ここには、私自身が熱力学の世界を歩き回わり、その過程で作った拙いメモ書きなどを集めました。備忘録として作ったメモ書きを、もう少しまともな文書に書き改める作業を、追々続けるつもりです。


定年退職によって増えた自由時間を、長年あたためてきた夢の実現のために使っておられる方は、多いと思います。私もその一人で、私の熱力学的自然像、世界観をより豊かなものにする作業を、老後の日々を送る上での拠り所にするつもりです。熱力学以外も含まれるかも知れませんが、まとまった覚書きができれば、逐次このサイトに含めていきたいと思っています。今の段階では、熱力学一色ですので、このサイトを「熱力学の世界を歩く」をテーマとして出発させることにしました。「〜に挑む」、「〜で学ぶ」、「〜を彷徨う」などに比べて、「〜を歩く」とするのが私の気持ちを表していると感じました。もっともこの世界でそれ程広範に歩いたわけではありません。興味を引かれた事にはこだわって道草を食い、そうでない所は素通りしてきました。熱力学の中の極く限られた所を行きつ戻りつしているうちに、人生の残り時間が少ないことに気づきました。そのため今の段階で、学んできたことをまとめておこうと思い、このサイトをウェブ上に公開することにしました。以上の経緯から判断されるように、ここは熱力学自体をテーマとするオーソドックスなサイトではありません。熱力学の基本的概念や理論体系を調べるには不適当です。ここにある熱力学には、「私」というフィルターがかかっています。ここには、私の新たに学んだこと、気づいたこと、記録しておきたいこと、をまとめました。間違ったことが書かれているかも知れませんので、そのつもりでお読みください。お役に立つことがあれば幸いです。

*「熱力学の基本法則の1つである。エントロピー増大則ということもある。第一法則が状態変化においてのエネルギー保存を述べているのに対し、第二法則は状態変化の起こる方向についての基本法則である。・・・」物理学辞典編集委員会編、『物理学辞典』、培風館、1986年。
** C.P.スノー(松井巻之助訳)、『二つの文化と科学革命』、みすず書房、1967年


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