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熱力学メモ 2

V. 断熱自由膨張のエントロピーバランス式による理解
VI. 熱力学から見た電池の仕組み
VII. ヘルムホルツエネルギーについて


V. 断熱自由膨張のエントロピーバランス式による理解

断熱自由膨張では、エントロピー変化はつぎの形になることは平衡熱力学から知られている。

ここでは、つぎのエントロピーバランスの式、(2)、に基づいて、断熱自由膨張を考える。

s は部分系の単位質量当たりのエントロピー(JK-1kg-1)である。微少体積の理想気体の塊りが真空容器の真ん中に置かれたとする。気体の塊りは外側の真空部に向かって膨張し、その体積と形が容器のそれらと一致したところで、平衡になる。この膨張は仕事をするわけではないので、熱を外部から供給しなくても、気体の温度は一定に保たれる。このような膨張が断熱自由膨張である。式(2)の左辺の左側の項は、気体の塊りの単位体積当りのエントロピーの時間変化率を表わす。この膨張の過程で、熱とともに分子も出入りしないので、左辺のdiv項はゼロである。従って右辺第一項(熱伝導により生成する単位体積当りのエントロピー)、第三項(物質拡散による生成の項)もゼロである。膨張は物理過程であり、化学反応は起こらないので、化学反応による項、右辺第四項、もゼロである。また自由膨張は真空への膨張であるから、'(=粘性応力) = (=応力) が成立する。従って、気体の塊りの単位体積当りのエントロピーバランス式はつぎのようになる。

気体の塊りの膨張によるエントロピー変化は、式(3)を気体の塊りが占めている体積と時間で積分すればよい。

  

この式の2行目から3行目への変形をもっと詳しく辿ると、つぎのようになる。

式(5)、2行目から3行目への展開において、2行目のずり応力(xy,xz,・・)は全て0、法線応力(xx,yy,zz)は方向にかかわらずに気体の塊りの圧力pで置き換えた。このようにできる理由は、理想気体の塊りの真空への膨張を扱っているからである。下図は応力による膨張のx成分を表す。中央部の立体は始めの気体の塊りであり、その右側の薄い板片は微少時間後の膨張した体積のx成分である。

式(5)に理想気体の状態方程式を入れて計算すると、つぎの結果式(6)になる。

これは、エントロピーバランス式から求めたものである。
式(6)は式(1)と一致しているので、エントロピーバランス式から
DSを求める過程は正しいと判断される。

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VI. 熱力学から見た電池の仕組み

 
我々の生活の様々な場面で電池はエネルギー源として役立てられている。電池からエネルギーが取り出す仕組みを理解するには、いくつかの段階を経る必要があると思う。始めの段階は、 (1) 孤立系のエントロピーは増大しようとする傾向があることを理解する、ことである。例えば、狭い領域に局在している気体の広がろうとする傾向はこのエントロピー増大則で理解できる。続いて 、(2) 閉鎖系で化学変化が自然に起こる場合には、ギブスの自由エネルギーが減少することを理解する。さらに、(3) 電池は反応によるギブスの自由エネルギー減少分が電気エネルギーに変換される機構を備えていることを理解する。ここでは 3 について述べる。
 電池としてダニエル電池を例にとる。この電池は、Zn電極系(Zn板をcZn2+M(モル濃度)のZnSO4溶液に浸したセット)、塩橋、Cu電極系(Cu板をcCu2+M(モル濃度)のCuSO4溶液に浸したセット)から構成されている。
 Zn電極系のZn板表面で、の平衡が存在している。Zn2+は水和イオンになって溶液に溶出し、電子はZn板内部に留まる。諸金属の電離平衡式群の中で、Znの電離平衡式は、比較的に右に偏っている。そのため、Zn板に接する溶液(領域I)のZn2+の濃度、CZn2+、はバルク(領域II)の溶液濃度cZn2+より大きくなり、Zn板の電位、EZn、は負になる。この判断は、電位EZnと両濃度の比、(cZn2+/CZn2+)、との関係に関するつぎのNernstの関係式に基づいている。

    
Cu電極系では、が成立する。Cuのイオン化傾向はZnより小さい。そのため、解離で生じるCu2+とe-の濃度は小さい。通常のCuSO4溶液の濃度では、バルク溶液(領域III)のCu2+の濃度cCu2+に比べて、Cu板に接する領域(領域IV)のCu2+の濃度CCu2+は小さいため、Cuの電位は正である。
これらの電極系を塩橋で連結した電池では、つぎの関係、
  

が成り立つので、Zn板を負極とし、Cu板を正電極とする電池になる。両溶液の濃度が等しければ、この電池の起電力はつぎのようになる。
  

この式はつぎのように標準電極電位の差に変換できる。これらの電極系の標準電極電位の値を使うと、起電力を求めることができる。
  
 電池の導線を高抵抗の負荷でつなぐと、Zn電極から、Cu電極へ微少電子が流れる。そのため外部に仕事をする(例えば、電球を点す、モーターを回転させる、など)ことができる。各電極系の解離平衡の式からわかるように、電子が流れると同時に領域IからIIへのZn2+の流れと領域IIIからIVへのCu2+の流れも生じる。このため、ZnSO4溶液は過剰のZn2+により電位は正になり、CuSO4溶液の電位は負になる。しかしこの電位の差は、塩橋左端でのCl-溶出と右端でのK+の溶出により、消失する。このためZn2+の増加とCu2+の減少が起こっても、両溶液の電位は塩橋により等しく保たれる。このことは、この電池反応のどの反応度においても(どの領域IIのcZn2+と領域IIIのcCu2+においても)、その反応度で最大の起電力が両電極間に表われていることを示している。従って、この電池でなされる仕事は反応の自由エネルギー減少分に等しい。何故なら、この仕事は、温度と圧力が一定という条件下でなされる体積変化以外の最大仕事であり、これは熱力学によると、反応によるギブスの自由エネルギー減少分に等しいからである。電池から取り出されたエネルギーが多くなればなるほど、cZn2+cCu2+は平衡濃度に近くなるが、平衡状態に達すると、起電力は 0 V を示す。
 以上から、ダニエル電池は、ZnとCu2+の組み合わせがZn2+とCuの組み合わせに対して、より多くの化学的エネルギー(正確にはギブスの自由エネルギー)をもっていること、さらにこのエネルギーを熱として失わずに電気的エネルギーに変換する装置であることが分かる。


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VII. ヘルムホルツエネルギーについて

 
ヘルムホルツエネルギーという熱力学関数が熱力学が築かれる過程でどのように導入されたか、この関数がどのように役立つかを纏めてみたい。
 始めに、組成変化のない閉鎖系(=熱機械系)を扱う。熱力学建設の始めの段階で見出された第一法則から、つぎの基本式が見出された。
   ...............(1)
USV は示量性変数で、それぞれ、内部エネルギー、エントロピー、体積を表す。TP は示強性変数で、それぞれ、温度、圧力である。式(1)よりU の変数はS、Vであるから断熱下での可逆的膨張圧縮を扱うにはU が便利である。しかし現実の熱機械系を扱うにはT とV を変数とする関数が必要である。式(1)から、変数がTV になるようにルジャンドル変換させることにより、関数F ( ≡U-TS ) が求められる。F はヘルムホルツエネルギーと呼ばれ、その微小変化量 はつぎのようになる。
   ......(2)
F の変数はT V なので、dT = 0ではである。すなわちF の微小な減少量-dF は可逆的に外部にする微小仕事に等しい。つぎに系の圧力より力学的周囲がピストンを介して系に及ぼす圧力の方が小さい(P >Pe )ときは、自然に膨張する。この膨張でなされる仕事はPedV である。従って不可逆過程では -dF >PedV である。以上二つの場合を纏めると、F の減少量は可逆的に外部にする仕事に等しく、不可逆的にする仕事より大きい。不可逆過程での不等式 -dF >PedV を等式で表すと、dF は式(3)のように二つの項の和で表すことができる。
      ..............(3)
第一項は外部にする仕事である、では第二項は何か。これを考えるために、等温過程で成り立つ関係dF =dU -T dS を式(3)に用いると、式(4)が成立する。
   .......................(4)
式(4)の左辺第一項は熱溜めのエントロピー変化、第二項は系のエントロピー変化である。可逆過程では右辺の項がゼロになるため、熱移動と膨張が起こっているのに全体としてのエントロピー変化(=左辺)はゼロである。不可逆膨張では全体としてのエントロピー増加量は右辺に等しい。右辺の項は不可逆過程で生成した「熱」に由来するエントロピー増加分である。この「熱」は熱溜めとの間を移動する熱でなく、系内部で生成しそのまま系にとどまるエネルギーに等しい。
 以上により、F の減少量は最大仕事に等しく、不可逆過程での仕事より大きい。最大仕事と不可逆過程での仕事の差が大きい程、その膨張(収縮)の不可逆の度合いが大きい。従って膨張(収縮)の仕事をさせたときの仕事がどの程度不可逆的に起こったかを知るときに、F は便利である。
 つぎに熱と機械的仕事で系外と関わるだけでなく系内部で化学反応の起こる系を扱う。この場合にF が役立つことを述べる。化学反応が起こるとき、式(5)が成立する。
     .................................(5)
この形の式はGibbs により不均一系の各相間の物質移動がある場合の考察に用いられたが、後にde Donder により化学反応のある系で成り立つことが示された。反応が起こらない系でのdF は式(2)で表されたが、反応が起こる系では式(6)が成立する。
        ..............................................(6)
T とV が一定の条件で起こる反応であれば、式(6)にdF =dU -TdS を適用して、つぎの等式(7)が成立する。
      ............................................(7)
この反応が全く不可逆的に起こったとき式(7)の右辺は必ず正であり、生成エントロピーを表す。この式で左辺第一項は熱溜めのエントロピー変化、第二項は系のエントロピー変化である。これと同じ変化を可逆的にさせることができる。式(7)の右辺の項を左辺に移して得た式(8)において、左辺第一項は可逆過程で反応させたときの熱溜めのエントロピー変化、第二項が系の変化である。可逆的に反応を起こさせると、熱力学第二法則から、全体のエントロピー変化はゼロのはずである。従って式(8)はこの法則に則っている。
      ....................................(8)
 式(4)と式(7)を比較すると、ヘルムホルツエネルギーは後者、すなわち等温で体積変化のない化学反応、において、不可逆性の程度を知るために便利であることが分かる。式(4)は、左辺がdFに比例していないという点で、式(8)と異なっている。
(この項、未完)


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