熱力学の世界を歩く

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雑 録

いままでに興味を感じて読んだ文献の中から、三編を紹介します。文献IIIでは、「抄録」に私(本ページ作成者)の「覚書き」を加えました。文献IIIは、まだ読みこなせていませんので、要旨の日本語訳のみ記しました。遅々として進みませんが、新たな材料ができ次第、この頁を更新していくつもりです。 (2005年12月11日)

文献 I Minimum Entropy Production in Photosynthesis
文献 II エントロピー低下機構としての光合成
文献 III
Thermodynamics of Light Emission and Free-Energy Storage in Photosynthesis

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文献 I
"Minimum Entropy Production in Photosynthesis"

C. D. Andriesse, M. J. Hollestelle, Biophysical Chemistry, 90(2001), p245-253.

解 読

1. 前文
光合成の機構はかなり分かってきたが、低効率の理由は分かっていない。ここでの効率は、光子の吸収、劣化に際して、光合成に使われる部分の比率を表す。従って、この効率は分子過程に支配されるように見える。しかし、光合成はenergy-poorな分子が太陽光を吸収してenergy-richな有機分子を作る過程であるので、それは物質流束とエネルギー流束との結合過程とも言える。この過程には非平衡熱力学という理論がある。それによると、最小のエントロピーが生成されるとき、光合成効率と葉緑体の輸送特性(熱伝導率、拡散係数)との間に簡単な関係がある。その条件は満たされているようだ。何故なら、妥当な(尤もらしい)拡散係数を用いて、効率の計算値と測定値は一致したからである。

2. 本文
Fig.1 は光合成の単純化した全体の構造をあらわす。 

1,photon; 2, 3,reaction center; 4,heat radiation; 5,[CO] and ;
, flux of molecules; , flux of photons.
定常状態では、つぎのエントロピー生成の式(1)と二つの現象方程式(ここには省略)が成立する。

これらとエントロピー生成極小の原理とから式(2)が見出される。
2

n; atomic density of water ; D, diffusion coefficient of glucose ;
l, thermal conductivity; k, Boltzmann's constant.
光合成の効率 は、反応に使われたエネルギー()の吸収したエネルギー()に対する比率であるからである。ここで、DGグルコース酸化反応でグルコース(1/6)モル当りのギブスエネルギー変化であり、hνクロロフィルaに吸収される光の光子のエネルギーを表わす。これに、式(2)を当てはめると、つぎの形になる。 
 
これに下記の諸数値を入れた結果が、効率の理論値(である。

 

光合成効率の測定値(記号: )は、光のエネルギー当りの消費されたの質量から求める。
C4 -plantsの6.2%     C3plantsの4.9%
以上をまとめると、理論値(=6.1と測定値(=4.9, 6.2%)は近い値である。
この論文では、エントロピー生成最小則が、光合成反応で当てはまることを前提にして式(2)を導き出した。上記のように、式(2)を使った計算結果(理論値)は実測値と合っているので、エントロピー生成最少則の光合成反応への適用は正しいと思われる。

覚え書


が成り立つことを理解するために、若干の考察が必要だった。その内容はつぎの通り。
は、(
sはエントロピー密度、qは熱密度、Tlは低温度の熱溜めの温度、Thは高温度の熱溜めの温度)、と同じであることを説明したい。式(1)を とすると、右辺の(DT/T)にかかる部分をと表わすことができる。ここでkはBoltzmann定数(JK-1)、tは時間(s)、jTは熱流束(m-2s-1)、ix方向の単位ベクトル、x方向に採った微少な長さである。x方向のみに熱の流れがあるとすれば、偏微分記号を1変数の微分記号に書き変えることができるので、になる。この式が成立することは、つぎの文献IIにも書かれている。
エントロピー生成最少の法則を前提にすれば、光合成効率の式がシンプルな形、式(3)、で表せることに驚いた。


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文 献 II
エントロピー低下機構としての光合成
安孫子誠也、「科学」、54(1984)、p.285-293.

  地上物質のエントロピーが一定に保たれている要因を光合成に求める考え方の中に、大気上空での低温放熱を伴う水の大循環を光合成の起こる原因とする考え方があった。この考え方は太陽光を「受光する際に発生するエントロピーの大きさはまだ研究されていないので、これをゼロと近似」している(槌田敦、「熱学外論」朝倉書店、1992年)ので、太陽光の関与する反応の熱力学的な仕組みを理解する上で助けにならない。著者安孫子氏は、入射太陽放射と再放射地球放射の温度差が光合成過程を引き起こすことを明らかにし、光合成が地上物質のエントロピー低下機構であることを示している。「具体的計算によって明らかにする。」と書かれているが、何かを測定して結論づけているのではなく、洞察により全体の熱力学的な仕組みが示されている。
この論文は光合成が地上の現象に占める熱力学的な役割を示している。この論文により、非平衡輻射の扱い方を学ぶことができた。結論はむしろ平凡だが、それが導かれる過程を追うことは、熱力学を具体的な系で考えることになり、多くを学ぶことができた。

解 読
 
地球上の太陽輻射の温度の節では、はじめに太陽温度が6000Kという事実と熱輻射のエネルギー密度が地球上では太陽表面の何倍になるかを幾何学的に計算した結果から地球温度が300Kであることを示している。つぎに地球上での太陽輻射の温度を約1300Kと求めている。
蛍光に関するプランクの法則の節では、この法則から照射により蛍光を放射しつつ定常状態にある物質では自由エネルギーが絶えず存在することを示している。このエネルギーの流れがある限りエントロピー生成が起こっているが、生成エントロピーは自由エネルギーを作りだした負のエントロピーによって打ち消されている。入射強度と放射強度は等しいときの電子遷移の頻度は、式(11)で表わされるように、入射強度と吸収能の積を、全波長に渉って積分した値に等しく、蛍光強度を全波長に渉って積分した値にも等しい。
   
(11)の右側の等式を(-1/k)で微分すると、
 
を導いている。等式の各辺を共通の変数で微分しても等号が成立することは分かるが、この操作により重要な結果、式(13)、が出てくることは意外だった。なお、本文中の式(9)はつぎのように表わすべきと思う。
  ・・・・・(9)
は媒体物質中での光の速さであり、媒体の屈折率をnとすれば、真空中での光速cによって関係づけられる。は、この論文では黒体輻射の単位立体角当りのエネルギー密度と定義されているので、これを媒体中での入射強度と関係づけるためには、で割らねばならない。

光合成の過程の要点はつぎの通りである。反応中心(クロロフィル分子の1%程度)に吸収された太陽光は自由エネルギーを生じる。その形は式(23)、、である。この寄与により反応中心が獲得したエントロピーは式(27)、、である。これと輻射場の生成エントロピーとの和、P1[S]、は
である。これは、反応中心に吸収されずに長波長輻射する熱によるエントロピー変化、、と打ち消しあう形になる。実際の光化学反応では自由エネルギーは反応の進行によって費やされ、最終的な生成エントロピーはつぎのように示された。

を用いると、が満されている。
この節には光合成の熱力学的な構造がコンパクトにまとめられている。反応中心でできる自由エネルギーが全て仕事に変換され続けるとしたら、この定常系の生成エントロピーはゼロである。今までに明らかになった数値を入れた計算によって、現実の光合成系では生成エントロピーは正になっていることが示された。従って、光合成反応は現実におこっていることが理解できるわけである。
地上物質のエントロピー低下機構では、光合成を含む地上での全現象を説明している。地上物質のエントロピーは光合成、消費、気象循環の3つの和としている。消費には人類の経済活動、生物の呼吸、解糖作用、火山爆発であり気象学的過程は、気象循環、河川流、海流である。地上の諸現象をこの3つでカバーしきれるものか、わからないが、ここではそうしている。考察の結果、物質のエントロピー変化はつぎのようになる。
  42
各項を検討した 結果、地上物質のエントロピーを下げているのは、のみであることがわかる。式(42)は当たり前の形であるが、これは輻射場と熱浴を考えて計算した結果であることを強調しておきたい。


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文献III
“Thermodynamics of Light Emission and Free-Energy Storage in Photosynthesis”  
Robert T. Ross and Melvin Calvin, Biophysical Journal, 7(1967) 595-614.

要 旨

螢光に関するプランクの法則を用いていくつかの光合成系で吸収スペクトルから螢光スペクトルを計算した。パープルバクテリアでは、計算による発光スペクトルは実験データとほぼ一致した。系Iと系IIがあるほうれん草クロロプラストの吸収スペクトルにプランク則の適用した結果、各系の発光スペクトルを互いに独立させて計算できた。その結果、系Iの発光量子収率を系IIのそれの三分の一にして計算した発光スペクトルが実験データと一致することが分かった。
光吸収により励起した分子種のエントロピーの考察により、励起状態の分子種の最大のモル自由エネルギーとこの分子種を含む反応系の平衡が保たれているときのモル自由エネルギーを計算した。1kluxの白色光照射下で、ほうれん草クロロプラストの最大のモル自由エネルギーは系Iで1.32ev、系IIで1.36evであった。励起したクロロプラストのある部分はトラップに遷移し、この変化が化学平衡にあるとする。クロロプラストの遷移しなかった部分は全て発光により失活するとすれば、励起したクロロプラストのモル自由エネルギーは、系Iで1.19ev、系IIで1.23 evだった。クロマチウムというバクテリアでは、1mw/(cm^2) の Na D 照射による励起種の最大のモル自由エネルギーは0.90ev、トラップとの平衡状態におけるモル自由エネルギーの最大値は0.79evであった。
トラップと平衡状態にあるときの光励起種のモル自由エネルギーと、励起種-トラップと励起種-基底種の移動速度の違いが励起種の発光量子収率にどのように関係するか、を大まかに考察した。

 

 


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