熱力学の世界を歩く

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情報について-熱力学的考察-
未熟な記事です。勘違いが含まれていなければよいのですが・・。いつかこれを踏み台にして、「情報」を再び考えたいと思っています。

熱力学を学ぶ過程で使った参考書 
一昔、或いはそれ以上も昔の本に偏っていることを懸念していますが、私の学んだ過程でお世話になった本を、ほぼめぐり合った順に列挙してみました。それぞれに、極めて個人的、主観的な解説を付けました。膨大な書籍群の中からめぐり会ったこれらの本に、愛着を感じています。この分野においても多くの良書が出ている現在、この作業にどういう意義があるか不明ですが、殆んど衝動で作ってしまいました。(2006年8月)




情報について 
-熱力学的考察-
 

世の中には我々人間と区別される非生命体(空気、水、土、岩など)があり、これらは相互に情報を交わすことはないと考えられる。これら非生命体を熱力学の対象とすることはできる。一方我々人間は日々身近な人と言葉を交わしたり、メール等で情報のやり取りをしながら生活している。しかし情報を含めた人間の系(システム)を熱力学の対象とすることはできない。物質から人間社会に至るまでの広い範囲の事物を統一的に理解することは我々共通の夢と言える。その実現を目指した顕著な動きは、最近の複雑系と呼ばれる対象―世界経済、株価、地球環境など―の研究に認められる。複雑系は物質とエネルギーが重なってできているものだから、その構造と変化の様相を理解することは困難が多い。しかしここで、「情報」というキーワードを用いると、考察を先に進めることができる、と思われる。

DNAの塩基配列の自己複製が、情報の伝達の実例としてしばしば論じられている。4つの塩基が同じ確率で出現する場合に、DNAのエントロピーは最も大きい。実際のDNAはそれから少し小さい方にずれている。そのエントロピーの差がDNAに備わっている情報量である。その情報が新たにできるDNAに伝えられる過程はワトソン・クリックのDNA二重螺旋モデルによって解明された。特定の塩基配列したDNA分子が2本の鎖に分かれ、各々の鎖が鋳型となって新しい鎖を作る。これによって元の二重螺旋が二つになる。このようにして細胞が分裂するたびに、できる細胞は自己複製されている。しかし、DNAの自己複製は複雑な化学反応に基づく結果でもある。各鎖が鋳型の働きをする原因は、塩基の水素結合によって説明される。従って、自己複製を情報で説明する必要は、必ずしもない。敢えて情報で考えれば、特定の塩基配列のDNA自体は情報を担っている高分子化合物であり、特定の塩基配列の伝達を情報の伝達と理解できる。情報の伝達で、DNA分子、細胞組織が維持される。生命体では高分子物質の安定な物質への分解即ち劣化が常に起こっている。これは熱力学第二法則の現われである。酵素は絶えず分解前の状態に戻しているので、酵素をデモン(架空の超能力者)と考えれば、デモンが情報を得てエントロピーを低く保っているように見える。この場合、酵素の働きは後述のマクスウェルのデモンやシラードのデモンと共通している。

非生命物質に情報を付与する例として挙げられるのは、マクスウェルのデモンである。マクスウェルのデモンは、置かれた環境で平衡下にある気体を、高温の部分と低温の部分に分離することができる。このデモンは、仕切り壁の扉への入射分子の速度に関する情報に基づいて気体のエントロピーを減少させているから、熱力学第二法則は破られているのかと問題になったが、現在は情報を含めても熱力学第二法則が成立することが明らかになっている。これに似た模型としてシラードの提唱したデモンがある。これは気体分子の位置に関する情報をデモンが得ることにより運転される空想上の装置である。シラードのデモンは、一つの熱だめしかないのに、熱を仕事に変える働きをする。

これら二つの模型に共通していることは、分子の飛行速度または位置にかんする情報に基づいて、デモンが気体のエントロピーを減少させる、ということである。マクスウェルのデモンはエントロピーの小さい状態を作り出し、シラードのデモンは減少したエントロピーが元に戻るときに仕事がなされる。マクスウェルのデモンにより分離された二つの部屋の気体は、元の混ざり合った気体よりエントロピーが小さいので、その差に相当する情報量があることになる。非生命体であるのに気体が情報を備えていることは、感覚的には受け入れにくい。しかし空間に偏って分布する気体が情報を備えていることは、特定の塩基配列を持つDNAが、ランダムな配列のDNAよりエントロピーが低く、情報を持っていることと対比すれば、納得できる。このように情報で考えると(エントロピーで考えていることになるが)、生体と非生体とを共通の視点で捉えることができる。これは統一的視点を得るために有益である。

マクスウェルのデモンに似た働きをする器具はある。それは分子の流れの中に置かれたザカリアススリットと呼ばれるものである。これにより熱分布のある分子の流れの中から特定のエネルギー範囲の分子を選りだすことができる。このほかにも物質や分子を分離するための装置はいろいろある。粒子径のまちまちな粉体を篩いにかければ、揃った粒子径の粉体に分離できる.同位体の分離には遠心分離機が役立つ。分離分析に各種クロマトグラフ、質量分析器などの分析装置がある。いずれにもデモンはいないが、分離に有用な道具,装置である。これから篩、遠心分離機、冷蔵庫、洗濯機などは、情報が付与された状態を作り出す装置であると言える。自然界では地球の重力や太陽光が、マクスウェルのデモンと同等の働きをすることが多い。一方シラードのデモンは、分子の熱エネルギーを力学エネルギーに変換する働きをするので、風車に似ている。このように情報を考慮に入れると、マクスウェルやシラードのデモンが表わす内容を深く理解できるようになる。

情報のもう1つの効果は、旧来の熱力学(それには情報の概念が含まれない)で扱いにくい領域を考察の対象とすることができることである。その一例は物理、化学の現象を実験で調べる場合にある。実験で扱う現象は測定者の五感や測定器からの信号で捉えるのであるから、情報が含まれている。情報として微弱な信号の測定では、信号とノイズとの分離などが問題になるから、データは信号の情報を含むと考えられる。別の例として、パソコンとこれを操作する者で作られる系がある。このような系は、自動車とこれを操縦する運転者の系、共生関係にある生き物のグループ、家族、仕事場での作業グループなど多く存在する。これらのシステムでは、電気信号、化学物質、言葉などにより情報が交わされている。これらを考察の対象にできることは、諸現象を統一的に理解する上で有益である。情報はエントロピー減少をもたらすので、情報が入り続ける間は、例えば家族という散逸構造が維持されていると解釈できる。この解釈は物質での定常状態に関する熱力学理論と似ているので、情報で繋がった系も物質で形成された理論の体系に組み込まれる可能性があると予想される。

情報には、物質のエントロピーと足し合わせることができる側面(量の面)だけでなく、価値の側面もある。この面が主要な現象に対しては熱力学が使えず、定量的考察は困難になる。ライオンが獲物を見つけてそれを追いかけるという現象は熱力学では扱えない。動物行動学とか生態学が用いられる。人間社会で起こる現象に関しては、心理学、社会学、経済学、法学等が用いられる。人間社会は、言葉、その他による情報伝達を伴って、維持されている。この領域が物質での理論と統一的に理解できるようになるかは不明である。最近活発に続けられている複雑系の研究では、この統一的理解が基本的目標と推定される。

参考文献
    妹尾 学他、エントロピー(共立化学ライブラリー)、共立出版、19?? 年。
    安孫子誠也、エントロピーとエネルギー(科学全書8)、大月書店、1983年。
    杉本大一郎、科学、55、No.9、541-550(1985)。
    妹尾 学、化学と生物、16、No.3、172-176(1978)。

 


熱力学を学ぶ過程で使った参考書

1. Physical Chemistry、Modern Asia Edition、F.Daniels, R.A.Alberty、John Wiley & Sons、1959年。

私が大学生になって最初に買った教科書の中の一冊。本書の過半が熱力学乃至平衡論で占められている。担当の教師は熱化学の専門家だったので、熱力学の3つの法則から化学平衡、相平衡を経て相図まで講義された。英語で化学を勉強することには鼓舞されたが、内容はあまり理解できなかった。熱力学関連の章では分子論による記述は殆んどなく、Gibbsの自由エネルギーがFで表わされているなど、読み返すと戸惑うところがある。これで習っていた頃、別の科目でポーリングの共鳴理論を先端的理論として聞いた記憶があり、隔世の感がある。

2. Physical Chemistry、 3rd edition、W. J. Moore、Maruzen、1960年。

本書には、熱力学を分子論的に基礎付ける章があり、書籍1より高度な内容になっている。本書に始めて取り組んだ頃、この本はかなり広く全国の大学で教科書として使われていたようである。私も大学専門課程の授業でこれを読まされたが、英語で未知の考え方を理解していくことは難しかった。そのため、授業以外のときは東京化学同人発行の翻訳書で勉強した。教養課程でも習ったはずとはいえ、エントロピーや自由エネルギーの実体が掴めなかった。相平衡、化学平衡の式がどのような考え方からつぎつぎと出てくるのか、が分からなかった。あらためて読んでみると、順を追って書かれているので、当時は途中の段階を読み落とし、聴き落としていたらしい。学部段階の学生には、本書は詳しすぎるのかも知れない。後になって、「必要分野の修得には和書(日本語)を、研究には原著(外国語)を」という考え方を先輩研究者に聞かされ、私自身もその方針に従うことにした。英語に親しむという目的を兼ねて今も読むことがあるが、科学史に関する記述もあり楽しむことができる。この感覚は翻訳書では味わえないと思う。

3. ラシブルック 統計力学、久保、木下共訳、白水社、1961年。

これも私が学生のとき教科書として購入したものだが、当時はあまり読めなかった。私自身が学生に説明せねばならない立場になってから、必要部分を読み、少しずつ理解が進むようになった。全般に、噛んで含めるように丁寧な説明がされている。化学平衡など化学への応用が詳しく扱われている。本書も翻訳書であるが、翻訳書に有り勝ちな取り付きにくさはなかった。学生として卒業研究をしていた頃、実験室の片隅で本書をめくりながら、「この本を繰り返し読める時間的余裕が欲しいなあ」と思ったものである。

4. 統計力学演習、小笠原万亀三郎著、白水社、1957年。

ラシブルック統計力学(上掲)の練習問題の解き方が載せられている。LangmuirやFowlerの吸着等温式を統計力学により理解したのは、この本によってだった。

5. ランダウ、リフシッツ 統計物理学上、小林秋男他共訳、岩波書店、1964年。

平衡にないボーズ気体のエントロピーを表わす式、黒体放射の節での熱平衡にない輻射に関する記述がある。これらについてきちんと書かれた書物は私の手元に本書以外にはないので、これらを確認するときに本書を開く。これら以外にも有益な情報が詰まっているようだが、本書には取り組めないままで来てしまった。「翻訳書は読みにくい」という先入観があるのかも知れない。「内容は豊富だが、基礎的部分の記述には感心しない」(田崎晴明)という評価もあるようだ。

6. 化学熱力学I、同II、妹尾 学著、朝倉書店、1971年、1976年。

熱力学を平易な文章で説いている初心者に親切な書物。不可逆過程で生じるエントロピー生成が丁寧に説明されていて、この本をよむまで感じていた熱力学の窮屈さから開放された。Iの5章で非平衡の状態、6章で微視的状態を扱っている。これらの章の内容は、はじめの頃理解できなかった。IIの「エントロピーの分子論」や後掲の諸書籍で関連事項を学んだ後に、Iの「状態変化とエントロピー」を読むと、始めて読んだときより理解が深まることを感じ、「熱力学という分野は面白いかも・・」と思い始めた。

7. 統計力学入門、都築卓司著、総合科学出版、1976年。

漫画風の挿絵が豊富な初心者向けの解説書。自然現象の理解になぜ統計が必要かに焦点を絞って作られた本である。これには随分お世話になった。局所系の諸現象の統計力学を説明しているので、非局所系が多い化学畑の私には難しかったが、読み返すうちに本書の価値が理解できると思うようになった。3つの統計(Boltzmann、Fermi、Bose)それぞれの、場合の数の数え方はこれで学んだ。この著者は本書の姉妹書「量子論入門」やブルーバックスの何冊かの著者であり、初心者向けの解説書を沢山書かれた方である。本書は絶版になっているそうで残念である。

8. 大学演習-熱学統計力学、久保亮五編、裳華房、1977年。

膨大な内容に圧倒される。興味を感じて、あるいは必要に迫られて取り組んだ例題、問題はいくつかあるが、それらは本書全体からみれば極く一部である。本書の内容は熱平衡状態に限られている。基礎事項は的確な分量でまとめられている。著者が日本人であるため、翻訳書でしばしば感じる分かりにくさと無縁であることはありがたい。英語版も出版されているそうなので、価値のある著書なのだろう。

9. 不可逆過程の熱力学序論第二版、妹尾学著、東京化学同人、1983年。

非平衡熱力学の必要性とその基本的仕組みを学んだ。これを購入した頃は非平衡系の入門書は少なかったので、この分野を理解するために繰り返し読んだものである。何度読み返しても理解できない箇所は同著者の別の著作(共立化学ライブラリー2、「エントロピー」、妹尾他共著、共立出版)と読み比べて理解に努めた。エントロピーバランスの式が作られた過程が書かれているが、私には理解し難く、この内容を曲りなりに理解できたのは書籍15で考えた後の時期である。細胞分裂や乳酸発酵経路のモデルと計算が扱われている。

10. ルイス、ランドル 熱力学 -ピッツァー、ブルワー改訂- 、三宅、田所共訳、岩波書店、1971年。

熱力学の歴史の厚みを感じさせる本。序文によると、本書は、初心者、エントロピーなどの哲学的意味付けを求める読者、純粋および応用科学研究者、の全てに応えようとして編まれたものらしい。ピッツァー等の改訂により初版になかった領域-分子論、不可逆過程など-が加えられたので、熱力学分野の百科全書的な趣きが感じられる。順を追って読む気にはなれないが、何か疑問を解決するために調べるときは、大概の項目が網羅されているので便利である。そのため、熱力学の理論構成を学ぼうとする初心者には不向きかも知れない。

11. 科学全書8 エントロピーとエネルギー、安孫子誠也著、大月書店、1985年。

太陽光の入射と再放出光とによって地球の様々な現象が可能になっている。その仕組みを考えるためのキーワードがエネルギーとエントロピーである。この立場からエネルギーやエントロピーという概念が生まれた経緯とこれらの概念の意義が記されている。カルノーサイクルからエントロピーが導入されてきた過程、電池から自由エネルギーが考え出されてきた過程、熱放射の熱力学的分析からプランクの量子仮説が出てきた過程など、歴史的記述が多く興味深く読めた。

12. 生命とは何か、丸山圭蔵著、共立出版、1992年。

古本として買った本だが、生物は個体の維持、種の維持、適応進化の3つのフェイズにわたって、5つの段階の第二法則に逆らう仕組みを備えている、ということを説明している。散逸構造体としての生物個体を含む種の精妙な働き、特に熱力学面での働き、が概括されている。物理学や哲学でなく、生物学者による生命論は珍しいので、興味深く読んだものである。進化する存在としての生物種が作られてきた仕組みを明らかにすること、これに関して本書では扱っていないが、解決すべき大きなテーマと思う。蛇足になるが、同じ書名の本としてシュレーディンガー著、岡、鎮目訳のものがある。

13. バーロー物理化学(上)第6版、大門、堂免訳、1999年。

学生に教育する立場になってから、教科書としてこの本の3版−6版を読んできた。12の原語教科書より後の時代に出版されてきたため、版が新しくなる度に、熱力学の章にも分子論的説明が組み込まれて、改善されてきた。しかし本書の特徴として、熱力学を状態関数のみで組み立て、「熱」と「仕事」の概念が排除されている。限られた期間で修得させるための工夫であろうが、現象をすっきりと理解することが難しいように感じる。化学実験を対象とするには、これで間に合うのかも知れないが、熱力学を不可逆過程に適用する場合を考えると、本書の方法は不便と思われる。

14. 不可逆過程の熱力学入門、一柳正和著、講談社サイエンティフィク、1995年。

ズバーレフの変数の組を使ったエントロピーバランスの式が説明されている。この式を導き出す過程でJeの内容が前半と後半で一貫していないことに気づいた。著者には些細な見落しだったのかも知れないが、学習者にとっては式展開の筋道が掴みにくく随分悩まされた。後に「15. 非平衡の科学」に取り組んで、この辺りの疑問を解決できた。化学反応に関してあまり言及されていないのは物足りないが、その代わりに、局所平衡の過程がなりたたないほどに非平衡の度合いが強い現象を扱う「拡張された不可逆過程の熱力学」の章がある。不可逆過程の科学を理解するために手頃で有益な専門書と思う。

15. 非平衡の科学I、北原、吉川共著、講談社サイエンティフィク、1999年。

平衡熱力学の熱力学関係式から非平衡熱力学におけるエントロピーバランス式への誘導が納得できる形で説明されている。この過程を追体験できたときはうれしかった。この部分は非平衡熱力学の入り口にすぎないが、長い間理解できずに過ごしてきた。エントロピーバランス式を導く過程は91416の書籍でも説明されているが、私が読んで納得できたのは本書によってのみであった。本書にはこの記述の後にも豊富な内容があるようだが、その部分を理解するときが私に来るかは分からない。

16. 現代熱力学 -熱機関から散逸構造へ- 、プリゴジン、コンデプティ共著、妹尾、岩本共訳、朝倉書店、2002年。

内部エネルギー、ヘルムホルツ自由エネルギーなどの関数が、不可逆過程で有用になるのはどういう場合かを、いくつかの例を挙げて説明している。これを読むと各関数の必要性が理解できる。本書に近いスタンスで著された著作に書籍69があるが、これらはそれぞれの目的に合わせた重点的な構成になってある。それに対して、本書は、平衡系からゆらぎによる秩序形成までを系統的にバランス良く説明している。この分野の開拓者プリゴジンの最晩年期に著された著作であるため、現代的視点から熱力学を再構成していて、散逸構造や今後の展望の記述もある。序論的、歴史的記述も豊富のようなので、何とか時間を作って本書に取り組んでみたい。

17. 化学本論-増補訂正改刻版-、片山正夫著、内田老鶴圃、1925年。   

古書店の書棚で見かけたので、軽い気持ちで購入したのだが、本書は、わが国の近代物理化学の父と呼ばれるべき著者による、本格的な物理化学のテキストだそうである。序言冒頭の、「静かなること林の如きギッブス先生が其の不朽の研究を公にし、疾きこと風の如きファントホッフ先生が三大論文を連發して天下を驚倒してより、早四十年にならんとする。此の間に於ける化學の進歩は、恰も甲冑刀槍の争より重砲機関銃の戦いに遷りたる觀がある。」から、出版当時の時代背景が彷彿させられる。この当時は、母国語で化学を学ぶことができる書籍を作ることに大きな意義があり、使命感に燃えて著わされたようである。母国語で学び考えることができる有難さ、有利さに関しては、ノーベル化学賞を授けられた白川英樹博士も述べられていた。宮沢賢治は法華経とともに本書を座右におき、愛読していたという。本書の電気化学の編に「電溶圧」をテーマにした章がある。そこでは、電池で起電力が現われる仕組みを、Nernstの考え方に基づいて、電溶圧を使って説明している。全般に、分かりにくい部分を丁寧に説明しようとする姿勢が感じられる。最近の教科書で電溶圧を使った説明があまりされていないのは、何故なのだろうか。



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